第三章
沈まぬもの
2018.1.26[金]―2.14[水]

崎キャンパスの風景を描いた吉川幸作の墨彩画は、キャンパスの過去の記憶をよみがえらせる。失われつつあるキャンパスの現状を映した桂木勝彦の写真とあわせて展示する。変化し消えゆく景色は絵や写真の中に形を残し続けるが、私たちの記憶の中でも色褪せずにいられるだろうか。また長きにわたりこの地とともに在った、旧工学部本館会議室の青山熊治壁画を映像で紹介、期間限定で実物を公開する。この大作は、どのように残されていくのだろうか。これらの作品を通し、残される記憶、失われる物語を今一度たどる。方舟は沈みゆく地に何を残し、未来という海原に何を運んでゆくのか。

青山熊治《九州大学工学部壁画》

青山熊治《九州大学工学部壁画》 1932 九州大学箱崎キャンパス旧工学部本館4階会議室 観覧可能日:2018.1.27[土]、2.3[土]

青山熊治 《九州大学工学部壁画》

山熊治は、兵庫県出身の画家であり、九州帝国大学工学部の西川教授との交友から工学部会議室の壁画を依頼された。工学部のテーマを木・火・土・金・水の五行思想としてとらえて表現している。昭和7年のこの作品は熊治の画集の集大成であり、遺作でもある。平成30年度のキャンパス移転の際も、ほとんどの建物は解体されるものの、この会議室を含む旧工学部本館は取り壊されずに保存されることになっている。ただし、一般に公開される機会がどのように確保されるかは未定である。

吉川幸作《銀杏の木と旧法文経ビル裏

吉川幸作《銀杏の木と旧法文経ビル裏》 2009以前

吉川幸作 九州大学風景画7点

川幸作は、九大ファントム墜落事故(1968年)以来、箱崎キャンパスの姿を、独自の手法で描いてきた。実際に箱崎キャンパスの建造物は大正、昭和初期の建物も多く、歴史的にも大変価値のあるものが多い。今回展示する《正門守衛室》に描かれた門衛所が、現在の箱崎キャンパスでは最古の大正3年に完成したものである。《地蔵森より見える創立50周年記念講堂》では、地蔵の森から望む50周年記念講堂が、秋の気配とともに描かれ、《銀杏の木と旧法文経ビル裏》でも、白亜の殿堂と呼ばれた旧法文学部が、葉を落とした銀杏の木とともに哀愁漂う佇まいで描かれている。《航空工学教室》は、戦争の記憶を残したまま、手前の桜と木々の緑とともに春を迎えている。また、旧工学部本館や旧法文学部と同じ倉田謙が設計した《保存図書館》の裏側、《工学部2号館裏通り》では初秋の様子を描き、《理学部の通路》では、通路越しに開けた空と人の姿が描かれる。作品は、墨と色鉛筆を使用した吉川独自の墨彩画という技法で描かれ、箱崎キャンパスの空気を見事に捉え、感傷的な雰囲気を描き出している。

桂木勝彦撮影 箱崎キャンパス写真7点

ャンパス移転を控え、続々と建物の取り壊しが進んでいる。九大専任のカメラマンである桂木勝彦が吉川の視点で撮影した写真を、吉田の作品と並べて展示する。現在のキャンパスに、もう戻らない過去を重ね合わせる。

桂木勝彦《銀杏の木と旧法文経ビル裏》

撮影:桂木勝彦 銀杏の木と旧法文経ビル裏 2017秋